竹内史比古 馬場理 渡辺真弥 湯澤晴美 伊藤輝代 崔龍洙 森本ゆふ 黒田誠 高橋幹男 安海明百 磯野克己 平松啓一
Staphylococcus aureus, epidermidis, haemolyticus の全ゲノム比較と進化

【目的】Staphylococcus(ブドウ球菌)属には S.aureus, S.epidermidis,S.haemolyticus など多様な種がある。S.aureus は病原性・薬剤耐性を持つ院内感染の原因菌であり、S.epidermidis は病原性は低いがほとんどの人に常在菌として存在し、S.haemolyticus は病原性は弱いものの薬剤耐性を早く獲得することが知られている。これらが共通の祖先からどのように進化してきたかを解明する。
【方法】これまでに S.aureus, S.epidermidis のゲノムが決定されており、今回我々は S.haemolyticus JCSC1435 の全ゲノムを決定しアノテーションを行った。全種の遺伝子のうち核酸配列で70%以上似ているものをまとめてホモローグとし、それらの各種での表れ方を見た。またその染色体での分布をみることにより、垂直・水平伝播による領域を推定した。
【結果と考察】各株の約2800遺伝子のうち約1200が共通していた。S.aureus に固有なものは800、S.haemolyticus では1100であり、前者には病原性遺伝子が、後者には転写制御系遺伝子が目立った。また、S.haemolyticus, S.epidermidis の両者に共通で、S.aureus には無いものには、硫黄の代謝遺伝子が多かった。垂直伝播による領域でも変異は一様ではなく、Staphylococcus Cassette Chromosome (SCC) を含む replication origin の前後は多様で変異が集積していたが、生育必須遺伝子はこの領域には見られなかった。水平伝搬については、S.haemolyticus の genomic island の中では、数十Kbに渡るユニークな phage 2つと SCC があるのみで、S.aureus に特徴的な、phage にも SCCにも属さず、しばしば病原性因子をコードしているようなgenomic island は見出されなかった。また、約80と多くの IS が染色体全体に渡り、これを足場にした染色体の組み替えが観察され(本大会、渡辺ら)、それによる遺伝子の破壊、転写のmodulation がこの種の表現型の柔軟性を可能にしているのかもしれない。